JPS町田 116号(2001年5月)

ペニー・ブラックのプレーティング
宮澤 秀直

集めた切手の楽しみ方には、各人各様、数えきれないほどの手法がありますが、その一つに、プレーティングといわれるものがあります。
これは、いったんシートからバラして単片とした切手を、各単片の特徴を手掛かりに、それがどの位置にあったかを調べて、元のシートの状態に復元することで、現在の大量生産方式で印刷される切手では、まず不可能なことですが、クラシックの手彫り切手などでは結構行われ、なかでも世界最初の切手の栄誉を担うペニー・ブラックは、使用した刷版12種、単片数にして2880すべてが判別可能とされています。
ぺにー・ブラックは凹版印刷ですが、刷版作製の際、それまで銅板に彫刻していたものを、パーキンス法という鋼板に彫刻、焼き入れして原版を作り、これを使って転写で多数の複製を作り、それを並べて刷版を作るという方法を採用しました。
シートの構成は、12×20、240枚、各印面の四隅にはチェックレターという白抜きの正方形を用意し、偽造防止のための文字を入れることにしましたが、作業が大変ということで文字は下段だけ、上段はX型の模様に簡略化し、下段の右には縦列に従って左端からABC順にLまで、左には左上から横列に従って同じくABC順にTまでの文字がポンチで1字ずつ打ちこまれたました。これでAAは1番、BAは13番、ここにあるKCは123番切手であることが分かります。またシートの四隅にはプレート(版)番号を入れました。
ペニー・ブラックの刷版は、パーキンス・ベーコン・アンド・ペッチ社(1852年以降はパーキンス・ベーコン社)の手によって1840年4月8日に完成(第1a版)、印刷が開始されましたが、焼き入れをせずに使用したため摩耗が激しく、4月22日には使用不能になったので補修することにし、同日から予備の版(第2版)で印刷を続行しましたが、第1a版の補修・焼き入れは5月末までかかり、5月6日の発売初日には間に合いませんでした。従って発売当初の切手は1版aと2版によるものとなります。その後、版は11版まで作られ、これに補修して使用した1b版を加えて合計12版が使用されました。
1840年末、1ペニー切手は黒から赤茶に刷色を変更(ぺにー・レッド)することになり、1b、2、5、8、9、10、11の各版が翌年1月からレッドの印刷に流用されました。このうち11版は本来レッド用として準備されたものですが、2月10日のレッド発売日までに1ペニー切手が不足の事態が起こったため、急きょ2月初頭2日間だけ700シート、16万8000枚のブラックを印刷しました。ブラックでは、この11版印刷のものが一番数が少なく、6版が最もありふれたものとされています。
この切手のプレーティングについては、1922年に研究結果が出版され、1949年にはリッチフィールドという人が、たやすく区別できる一覧表を発表しています。
ここには、その手法で判別した1a版から11版まで全ての版の黒、赤茶両色の123番切手をご紹介します。
1枚1枚の切手の位置確定は簡単ですが、あとは複数使用されたポンチの字体、打ち込み位置や傾き、ガイドラインと呼ばれる目印の細線の有無、転写の状況などによる版の欠点などが頼みで、その解明にそそいだ先人の情熱には、ただただ驚くばかりです。
参考資料「ペニー・ブラック物語」(魚木五夫著)


123番(チェックレターKC)切手による
ペニー・ブラック、ペニー・レッドの全刷版
(プレートNo.1a−11の全12版)
1a 1b
ガイド・ライン
1b

ガイド・ライン

ガイド・ライン

ガイド・ライン

ガイド・ライン
10 10 11
右下コーナー
リカット
11
123番(KC)切手3、4、5版の特徴


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